(1)人生100年時代って本当?

ようこそ、JIBUN+のブログへ。ここでは、健康情報について広く扱っていく予定です。NOTEでいろいろと書いてきたことをこちらのブログにまとめていく予定です。栄養の話から体の使い方まで、幅広く取り扱っていきたいと思います。

おそらくはご自分の健康を気にしてこのブログに行き着いた皆さんには、まずは以下の話を読んで考えていただきたいと思っています。

何年か前から言われてきた「人生100年時代」というキーワード、いつの間にか当たり前のこととされてしまっています。でも、それってどこまで本当なのでしょうか。本当に私たちは100歳まで健康に生きられるのでしょうか。

あまり気にしないで信じている人も多いと思いますが、データに基づいて検証しましたので、それを読んでいただきたいと思います。

そして、マスメディアが言っている情報を鵜呑みにしない、ということの重要性を理解して、今後は色々な健康情報に接していっていただきたいと思っています。

前置きはこれくらいにして、ちょっと長くなりますが、ぜひ最後までお読み下さい。そして、感想をコメント欄に記載いただけるとありがたいです。

1.「人生100年時代」は本当か?

人生100年時代。このフレーズが登場したのは、おそらく2016年のことだと思います。

『LIFE SHIFT(ライフシフト)ー100年時代の人生戦略ー』(以下、『ライフシフト』)という本が有名になり、当時の安倍政権において、この本の著者のリンダ・グラットンさんを有識者に迎えて「人生100年時代構想会議」なるものを設けてリカレント教育であったり、高等教育の無償化、定年の引き上げといった方針を打ち出すのに利用していきました。

その後は私の予想通りに、生命保険会社などが「人生100年時代の生命保険」などとマーケティングに利用していきました。

そして一人歩きし始めた「人生100年時代」という言葉は、多くの業界で当然であるかのごとく自分たちの主張を補足するための言葉として利用されるようになっていきました。

今では、深く考えずに「自分は100歳まで生きられるのだろうか?だとしたら老後の貯蓄は大丈夫だろうか?」と心配している人も多いと思います。

2019年6月には金融庁のワーキンググループの報告書をきっかけに老後の2000万円問題が話題になりましたが、これもきっかけは「人生100年時代」から来ているのは間違いありません。

私は2016年に有名になったこの「ライフシフト」を発売当時に買って読みました。本書の後半部分では、人生100年時代においては今までの人生設計を変えないといけないという話で、人生80年と考えて生きるのと、100年と考えて生きるのでは、50歳、60歳の時の考え方が全く違ってくるな、という感覚を持ったのは覚えています。

しかし、その前提となる「人間は100年生きられる」という「ライフシフト」に記載されている根拠の信憑性については、スッと頭に入ってくるような説明ではなく、これまでが順調に伸びてきたからこの後もこのままのペースで平均寿命は伸びるよ、というかなり乱暴な議論で書いているように感じました。

そのため、この「人生100年時代」という言葉に関しては、当初からかなり疑いの目をもって見てきました。

昨年10月にはNature Agingという科学誌に載った論文を元に、人生100年時代は来ない?」というニュースが駆け巡った事を覚えておられる方もいらっしゃると思います。

この論文で主張されていたことは、「生物学的な老化のプロセスを著しく遅らせる画期的な介入が実現しない限り、今世紀中に人類の寿命が抜本的に延長する可能性は低い」、つまり人生100年時代が今世紀中にくる可能性は低い、ということでした。

えっ、では、結局のところどうなの?という疑問をお持ちの方も多いと思います。「ライフシフト」が発売されて9年経過した2025年現在で、この話はどのように捉えられているのか、私なりに調べてまとめましたので、興味のある方はぜひお付き合いください。

このブログを読んでいただいている方は、おそらく健康意識が高く「漠然とした老後への不安を感じているが、具体的に何をすればいいか分からない人」「健康には意識があるものの、情報過多で混乱している人」という40代くらいから70代くらいまでの方々だと予想していますので、その人達が一体何歳まで生きる可能性が高いのか、ということを含めて、色々な角度から検証していきたいと思います。

当然、その中では、健康に生きるためにはどうしたら良いのか、という話が出てくると思います。

それらのトピックス、テーマについては個別にとりあげていき、自分の健康寿命を延ばしていくためには何をしたら良いのか、ということを考えられるような内容にしていきたいと考えています。

何回かのシリーズになりますが、一連のシリーズを読み終わったときには、当初持っていた漠然とした老後不安の解消や、具体的な行動へのヒント、情報リテラシーの向上など、得られるものはそれなりにあると思います。

特に、私がこのブログを通して皆さんにお伝えしたいことは、「情報があふれかえっている現代において、情報の取捨選択の仕方を自分なりに構築していこう」ということです

「人生100年時代」というマスメディアでは当然のように扱われているこの情報についても、どれだけの人がしっかりと調べた上で使っているでしょうか。おそらくはほとんどの人が、マスメディアが言っているから、というだけの理由でそう信じていると思います。

本当にそれでいいのでしょうか。特に、新型コロナウイルスとそのワクチンについては、色々な情報が錯綜して、どれを信じて良いのかわからなくなった人もいるかと思います。

でも、その時に間違った情報を信じてしまったために命にかかわる事態になってしまった人や、知り合いにそういう人がいるという方もいると思います。そういう場合にどうしたら良いのか、そういう考え方も少しずつ取り上げていきたいと思います。

それでは、このブログで取り上げる最初のテーマとして、「人生100年時代」についてみていきましょう。

この中では、平均寿命と平均余命、平均寿命と健康寿命、など、色々と小難しい話も入ってくると思います。少々専門的な内容も含まれますが、できる限り分かりやすく解説しますので、ぜひお付き合いください。

また、私の言っていることが正しいかどうか疑問に思う人も当然いらっしゃるでしょうし、盲信して欲しくないので、検証できるための元のデータや参考になる資料については可能な限りリンクをつけてありますので、ぜひそれらも活用してください。

2.日本人の平均寿命と、自分は何歳まで生きられるのか?

日本人の平均寿命は?という問いについては、どうやったらわかると思いますか。Googleで検索、あるいは今ならばAIに聞いてみる、ということになりますよね。

でも、その元のデータはどこから発表されているのでしょうか。それは厚生労働省が毎年発表しています。国勢調査が行われる5年に1回は生命表として、それ以外の年は簡易生命表として発表しています。

日本人の平均寿命は、2024年に発表された令和5年簡易生命表に基づく統計によれば、男性が81.09才、女性が87.14才です。女性の方が約6才長生きする計算になります。

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表1 日本人の平均寿命の推移

日本人の平均寿命は、上の表1をみればわかりますが、年々伸びてきているのがわかると思います。ただし、令和3年以降は新型コロナウイルスの流行(及び新型コロナウイルスワクチン)の影響で平均寿命の伸びが止まっていることがわかります。

新型コロナウイルスの流行に関する話は別にする予定なので、ここでは取り上げずに平均寿命関連の話を進めていきます。

まず、「平均寿命」という言葉は、この令和5年簡易生命表によると、「平均寿命とは、0歳の平均余命のこと」である、と記載されています。

では、平均余命とは何か、というと、数式を使った定義はこの簡易生命表の参考資料1に記載されていますが、多くの人は興味がないと思いますので省略して簡単に言うと、「ある年齢の者が平均してあと何年生きられるかという期待値」を示したものになります。

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表2 主な年齢の平均余命

つまり、上の表2において、例えば令和5年の60才女性の平均余命は28.91でした。ということは、令和5年において60才の女性は、平均あと28.91年生きられる、つまり平均88.91才まで生きられる、という事になります。

あれ?日本人女性の平均寿命は87.14才ってさっき言ってたよね?と思った方。非常に鋭いです。この平均余命の表に載っている数字の方が、実は平均寿命の数字よりもご自分の寿命を予測するのに重要なのですよね。

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図1 平均余命から計算される年齢別寿命

先ほどの表2の数字に、それぞれの年齢を足して、平均余命から計算される年齢別の寿命をグラフにしてみました。
まず、平均余命の折れ線グラフ(濃い青(男性)と赤(女性)の線)は、右肩下がりに下がっていますが、60才ぐらいからその下がり方が緩やかになっているのがわかると思います。

つまり、60才、70才とある程度の年齢まで生きた人は、当然長生きすることが予想されるわけで、女性の平均寿命が87才だから、85才の人の平均余命は2年か、というとそんなことはなく、約8年の平均余命があるということです。

そこで、平均余命から計算される年齢別の寿命を、同じグラフで男性:青、女性:オレンジで棒グラフにして見ました。そして、このブログを読んでいる可能性の高い40才から70才までの女性の平均余命から予測される寿命をグラフに書き込んで黄色く示してあります。


  0才:87.14才(これが平均寿命)
40才:87.85才
50才:88.23才
60才:88.91才
70才:89.96才

つまり、平均寿命が何才、と言われても、40才くらいまではそのままその数字を受け止めれば良いのですが、50才でプラス1才、60才以降はさらに加算して考える必要がある、ということがおわかりになったと思います。

あなたの年齢の平均余命はどのくらいでしたか?想像通りでしたか?特に70才以上の人は、平均寿命と平均余命から計算される寿命はかなり差があると言うことを認識しておく必要があります。

次は健康寿命についてのお話です。

3.平均寿命と健康寿命

さて、ここまでの話で平均寿命と自分の年齢における平均的な寿命には、特に60才以上の人は乖離があるということをお話ししました。

でも、このブログを読みに来ていただいている人達はおそらく平均寿命の事など当たり前で、これから話をする健康寿命についてもよくご存じかと思います。とはいえ、中には知らない方もいらっしゃると思いますので、復習の意味も兼ねてぜひお読みください。

健康寿命とは、厚生労働省のホームページによると、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」の事を言うそうです。健康寿命は3年に1回発表されるそうで、直近の発表は2022年(令和4年)の数字しかないので、次の発表は2026年になりそうです。

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図2 日本人の平均寿命と健康寿命

それによると、令和4年(2022年)の男性の平均寿命は81.05才、それに対して健康寿命は72.57才でその差は8.49年。女性の平均寿命は87.09才で、それに対して健康寿命は75.45才。その差は11.63年です。

上のグラフ(図2)に、平成13年(2001年)からの推移が載っていますので、みていただければわかりますが、平均寿命と健康寿命の差は少しずつ短くなりつつあるとは言え、あまり変わっていません。すなわち、男性は約8年、女性は約12年が不健康な期間であるということです。

ということは、この不健康な期間はどのように過ごすか、というと、皆さんのご想像通りで、自分1人で日常生活を送れないため、誰かの介助が必要になる生活ということです。病院にいたり、介護施設にいたり、自宅にいても誰かの助けを借りないと自分1人では生活できない、ということです。

「ベッドでの生活が増える」「外出が難しくなる」「趣味活動が制限される」これではいくら平均寿命が長くなったとしても、生きていくことが楽しくなくなってしまいますよね。

男性と女性の平均寿命の差は約6才でしたが、健康寿命の差は72才と75才で約3年しかありません。平均値であり、健康寿命は徐々に伸びてきてはいますが、現状では男女ともに、75才までは自分1人で生活できる可能性が高いが、75才を過ぎたら誰かのお世話にならないといけない可能性が出てくる、ということです。

まず、この事実をしっかりと認識しておきましょう。そして、健康寿命を延ばすことが、豊かな人生を送る上でいかに重要かということもおわかりいただけたと思います。

そういう意味では、75才以上は後期高齢者という後期高齢者医療制度の導入に伴う線引きが一時問題視されましたが、統計上は、健康寿命という意味で、それなりの意味を持っている数字という事になりますね。

さて、健康寿命が女性でも75才という現実を確認したのですが、だとすると、「人生100年時代」は何だったの?ということになりますよね。

前回の復習として、このブログの想定読者である40代から70代までの男性の平均寿命は82才~85才、女性の平均寿命は88才~90才だということを思いだしてください。平均寿命で考えても10年違いますよね。

では、「ライフシフト」では一体どういう主張がなされていたのか、次はそれをみていきましょう。それを確認せずに「人生100年時代」なんておかしい!とは言うことはできません。

4.「ライフシフト」で書かれていた内容

かなり寄り道がありましたが、まずは2022年時点での健康寿命と平均寿命、そして各年齢での平均余命から考えて、ご自分の年齢ならば、何歳くらいまでは健康でいられて、何歳まで生きられることになっているのか、という事は皆さん把握されたと思います。

この知識なしに、「ライフシフト」の話を読んでいってもわからないと思いますので、長々と解説をしてきたわけです。

さて、「ライフシフト」における100年まで生きられる、という根拠となるデータは、主に下記に示す二つのグラフになります。

まず、下の図3は、2007年生まれの子供の半数が到達する年齢となっており、日本では107才である、という試算がなされています。他の先進国においても、最低でも102才であり、この予測の通りであれば人生100年時代というのも頷けます。

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図3 「ライフシフト 100年時代の人生戦略」p41より引用

では、この図3の根拠はどこにあるのか、というと、それは次の図4が全ての根拠になっています。このグラフは、2002年に科学誌のScienceに掲載された論文に記載されている内容を元に、出典として記載されているHuman Mortality Database というサイトのデータを加工して作ったということです。

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図4 「ライフシフト 100年時代の人生戦略」p42より引用

この図4のデータの元となるScienceの論文では、1850年頃~2000年までの各国の平均寿命の推移をデータベースを元にグラフにしてみたところ、産業化された国々では平均寿命が着実に伸びており、特に女性の平均寿命は年間約3ヶ月のペースで上昇していて、これは経済発展、社会改善、医学の進歩の成果である、ということを考察しています。

多くの公式予測や専門家の間で、平均寿命には生物学的な限界があるという考えが広まっていましたが、この論文はこの考えに反論しています。過去の平均寿命の「天井」とされた予測は、平均して発表から5年で上回られてきましたというデータを出しています。

従って、今後も現在の傾向が続けば、今後数十年のうちに平均寿命が90歳を超える国が現れると予測しています。

確かに、このペースでずっと平均寿命が伸びていき、限界とされているものを打ち破っていけば、図3で示したように、2007年に生まれた子供は2107年に半数が100才を迎えることができる、という事も可能だと思います。

ただし、この予測が本当に今後も成立するのか?というところが議論のポイントになります。「ライフシフト」においても、悲観論と楽観論の二つがあることを紹介しており、今の8才の子供が47年後に55才になったときに、47年後の平均余命を現在と変わらないという前提で考える(「ピリオド平均寿命」)のか、あるいは47年後には平均余命がこれまでと同じように伸びる(「コーホート平均寿命」)のか、二つの立場があると紹介しています。

もう少し詳しく説明すると、「ある時点(ピリオド)」の値を使って試算する平均寿命をピリオド平均寿命と言います。

「ある時点の値」をそのまま将来にわたってもと言う考え方なので、何十年もの未来に「医学や栄養学の進歩、公衆衛生や健康に対する意識の変化などはない」と仮定している事になります。悲観論といっても良いでしょう。

それに対して、20107年に生まれた集団(コーホート)を2017年時点、2027年時点・・・とずっと追跡できないか?と言う考え方で試算されたものがコーホート平均寿命と言われるものです。

コーホート分析は将来の死亡率の変化を予測して試算するものですからあくまでも「予測」です。楽観論であるということになります。

「ライフシフト」においては、医療の進歩が今後も同じペースで続くという前提で、コーホート平均寿命を採用した、と明記してあります。

つまり、楽観論をとったということです。であるならば、悲観論のピリオド平均寿命で考えるとどうなるのか、という事は検証しておく必要があります。

「ライフシフト」においては19世紀からの150年もの期間について、平均寿命の伸びを見ていましたが、日本の平均寿命については、1950年頃からは5年おきにデータがあります。

これを使って例えば1965年生まれの人が生まれたときからの5年あるいは10年ごとの平均余命がどのように伸びてきたか、を調べてみると、下記の表3のようになります。

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表3 1965年生まれの男女の平均余命の推移

つまり、1965年に生まれた女性は、生まれたときの平均余命は72.92才でしたが、10才になった時の1975年には平均余命が77.87才と5才近く伸び、25才になった1990年には82.64才と、生まれたときから約10才も平均余命が伸びた計算になります。さらに2020年の55才の時は、89.06才とそこからさらに6才も伸びました。

つまり、生まれたときから平均余命が16年も伸びたということになります。これはなぜかというと、「ライフシフト」に書かれていた平均寿命の伸びをそのまま反映しているためです。

先ほどの表3で、1970年から10年ずつ見てみると、多少のデコボコはありますが、平均して10年で2.5才程度の寿命の伸びがあることがわかります。(男性の場合、83.50才(2020年)ー70.67才(1970年)=12.83才/50年=2.56才/10年)これは、ライフシフトの図1-2(ベストプラクティス平均寿命)での寿命の伸びとほぼ一致します。

つまり、これまでは、医療の進歩や公衆衛生の向上などにより、平均寿命は10年で約2.5才程度伸びてきたという事になります。

では、この伸びは今後も続くのでしょうか?実は、内閣府が2070年時点での平均寿命を推計した資料(国立社会保障・人口問題研究所作成)を出してくれています。

それによると、下の図5に示すように、2030年以降は平均寿命は約10年に1才ずつ伸びていく計算で、2070年には男性は85.89才、女性は91.94才という推定がなされています。

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図5 2070年の推定平均寿命(内閣府資料より)

実はこの推定は、10年で平均寿命が約1才伸びるという計算をしているため、そのままのペースで平均寿命が2100年まで単純に延び続けるとすると、2100年時点で、男性が88.89才、女性が94.94才という試算ができます。

従って、特に女性は平均寿命が100才にかなり近づきますが、日本の公的機関の推計としては、100才を超えるという予想は出していないということです。

「ライフシフト」では、10年に2.5才平均寿命が伸びるといいましたが、このペースで平均寿命が2100年まで延び続けるとすると、2020年の女性の平均寿命は87.71才なので、87.71+2.5×8=107.71才となり、2100年には女性の平均寿命が107.71才、同様に男性の場合は2020年が81.56才なので、2100年には101.56才という試算ができます。

2100年の平均寿命については、男性では88.89才(悲観的予測)~101.56才(楽観的予測)の幅に収まる可能性が高く、女性では94.94才(悲観的予測)~107.71才(楽観的予測)の間に収まる可能性が高い、という予測を立てることができます。男女ともに90才程度までは平均寿命が伸びる可能性がある、という事ですね。

以上の計算は、かなりラフな計算なので、専門家に言わせると問題があるかもしれませんが、私たちが把握しておきたいのは大体の数字なので、以上の計算はそれほど大きく外していないと考えて良いでしょう。

さて、最初にご紹介しましたが、2024年10月にNature Agingという科学誌に「ライフシフト」で紹介されていた楽観的予測を否定するような論文が出されました。

20世紀においては、平均寿命の伸びは10年あたり3年のペースで伸びてきた(先ほどは「ライフシフト」では平均寿命の伸びが10年あたり約2.5年として計算している、という話を書きました)が、直近の2010年から2019年までの間でこのペースを維持した国は一つもなかったというデータを元に考察しています。

この10年では平均寿命の伸びのペースが落ちてきており、平均寿命が延びるにつれて、さらに1年寿命を延ばすために必要となる死亡率の低下率は大きくなっており、寿命を延ばすことがますます困難になっていることが示されました。

また、寿命のばらつきを示す「寿命の不平等」は1950年以降一貫して低下しており、死亡する年齢が特定の範囲に集中(圧縮)してきていることが明らかになりました。 これは、寿命が上限に近づいていることを示す経験的な証拠になります。

2019年のデータに基づくと、現在の新生児が100歳まで生きる確率は、どの国も50%には遠く及ばず、平均では女性で5.1%、男性で1.8%に過ぎません。 今世紀中にこの確率が女性で15%、男性で5%を超えることさえ楽観的であると指摘されています。

この研究は、「ほとんどの新生児が100歳まで生きる」といった予測に警鐘を鳴らし、そのような楽観的な見通しは年金や保険などの制度設計においてリスクとなり得ると指摘しています。

「ライフシフト」は2016年に発刊された本なのですが、その時点で10年以上前の2000年までのデータと2002年のScienceという科学誌のデータしか使っておらず、直近10年のデータを一切引用していなかったことが私は引っかかっていました。

このNature Agingの論文では、2010年以降は平均寿命の伸びが低下しているということでしたので、うがった見方をすると、「ライフシフト」ではあまり最近のデータを使うと不都合が出るから使わなかった?という疑問も出てきます。

ただ、このNature Agingの論文でも、今後の科学の進歩や何かのブレークスルーがあれば平均寿命が伸びる可能性は否定していませんので、断定的に言うことはできないと思います。とはいえ、私はこの論文が出たことによって、「ライフシフト」が出たときから持っていた違和感が説明できたような気がしました。

長くなりましたので、そろそろまとめます。

5.「ライフシフト」の主張を踏まえて再度情報を整理

それでは、人生100年時代を提唱した「ライフシフト」の主張もある程度わかったところで、再度これまでに理解した内容をまとめていきましょう。

まず、日本人の平均寿命ですが、2022年のデータで、男性が81.05才、女性が87.09才と、男女で約6才の違いがあります。一方、他人の世話にならずに自分自身で独立して生活ができる期間としての目安として用いられる健康寿命については、同じく2022年のデータでは、男性で72.57才、女性で75.45才と、男女の差は約3才しかありません。

ということは、いわゆる不健康な期間については、男性が約9年なのに対して女性が12年と、女性の方が3年ほど長い、というデータがあるということです。

次に、平均寿命とは、0才児の平均余命の事であり、各年齢での平均余命は平均寿命と一致しているわけではなく、特に60才を超えた人については平均余命は平均寿命より長い、という事を確認しました

長いといっても1-2才なのですが、自分が何才まで生きられるか、という目安を知りたい場合には、単純に平均寿命をみるのではなく、生命表を見ながら確認するという作業が必要だということをご理解いただいたと思います。

健康寿命については、平均寿命とは違って多くのデータがないのですが、平均寿命から男性で9才、女性で12才を引いた数字で考えておけば良いという事だと思います。

その前提の上で、「ライフシフト」に書かれていた2100年の平均寿命の話に入ります。「ライフシフト」では、これまでお示ししたように、平均寿命が10年で約2.5才ずつ伸びるという楽観論を採用しています。そのため、そこから計算すると、2100年には日本人の平均寿命が男性で101才前後、女性で107才前後という予測を出している計算になります。

(「ライフシフト」では男女の平均寿命の違いを議論しておらず、また「2007年に生まれた人の50%以上が107才まで生きる」という表現を使っているため、厳密に言うとこれは平均寿命の事ではなく「寿命中位数」という数字を示しているのですが、話がややこしくなるのでその説明は割愛いたします。)

一方、国立社会保障・人口問題研究所の推計では、2100年には男性の平均寿命は89才前後、女性は94才前後になるような計算をしています(この推計は2070年までですが、そこまでの寿命の伸び率を2100年まで外挿した場合の数字を記載しています)。

2100年において、健康寿命と平均寿命の差がどうなるのか、という予測はあまりないため、現在の平均寿命と健康寿命の差をそのまま用いるしかないのですが、その場合は、2100年において、悲観的な予測では、2100年には男性の健康寿命は89-9=80才、女性の健康寿命は94-12=82才という試算ができます。

一方、ライフシフトの楽観的な予測では、2100年には男性の健康寿命は101-9=92才、女性の健康寿命は107-12=95才という試算になります。

つまり、健康寿命については、現在の男性で72.57才、女性で75.45才から伸びて行くにしても、2100年時点では、悲観的予測では男性で80才、女性で82才と約80才前後まで、楽観的予測では男性で92才、女性で95才と約90才前後まで健康でいられるという予測ができるという事になります。

ただしこのブログを読んでいる方々は、仮に現在40才としても75年後の2100年には115才なので、ほぼ全員が生きていないであろうという事は付け加えておきます。あくまでもこの数字は皆さんのお子さんや孫の世代の話になります。

これまで書いてきたことを表にまとめると、下の表4のようになります。

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表4 2100年時点の平均寿命と健康寿命の予測

いかがでしょうか。ここまで長々と数字をいじくってきましたが、重要なことは、「人生100年時代」だ、とマスメディアで言われていても、2025年の現時点では、自分が100才まで健康で生きられる可能性がそれほど高いわけではない、ということがおわかり頂いたと思います。

さらに、いわゆる健康寿命という事を考えた場合、まだ男女ともに75才を過ぎたら他人のお世話にならないといけない可能性が高いのが現状です。それは、2100年になっても楽観的予測に基づいても90才を少し超えるくらいでしかありません。

従って、「人生100年時代」というマスメディアの宣伝に踊らされることなく、平均的な健康寿命の75才をいかに伸ばしていくことができるか、ということに焦点を当てて、ご自分の日々の健康をいかに維持していくか、という事を一緒に考えていきたいと思います。

実は、「人生100年時代」のテーマを考える中で、すでにいくつかのキーワードを書いてきました。これらのキーワードについて、今後は個別に深掘りしていきたいと考えています。
かなり幅広いテーマにわたるため、完成するにはそれなりに時間がかかると思いますが、一通りまとまった頃には、それらを読んだ上で再度この「人生100年時代」のテーマに戻ってきて頂けると、より自分の健康について深く考えて、自分なりの方法を実践できることができるようになっていて欲しいと願っています。

そこで、最初に取り上げる話題は、情報の取捨選択についてです。これができないと、間違った情報を信じてしまい、最悪の場合には命にかかわる事態に発展してしまいます。

そのため、正しい(と自分が信じられる)情報をどうやって入手していくのか、その話からしていきたいと思います。

このまま次の話に進む方は、下記のボタンを押して下さい。

※なお、時間がなくてこの先を今は読めない方は、「情報の扱い方」というキーワードをメモするか覚えておいてください。次に戻ってきた時、このキーワードがあれば「YouTube時代の情報の扱い方」を読めるようにしてあります。

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